持続可能な社会に向けて

環境問題は、市場メカニズムだけでは解決できません。だからといって政府だけでもうまくいくものでもありません。幸い市場において近視眼的な利益追求ではなく、社会や環境に配慮した企業やそれを支持しようという消費者が現れています。要は、それぞれのいいところを組み合わせて、補い合いながらやっていくということになります。暑い時に、電気は使うが室温自体を下げてくれるエアコンがいいのか、電気消費量は小さいが体感温度だけ下げてくれる扇風機がよいのか、二者択一を考えるより、両者を併用すればうまいこと快適性と省エネに貢献できるようなものです。

環境マーケティング論は、企業や消費者の行動が自律的に環境配慮的となる可能性を研究します。

環境マーケティング論は、持続可能な社会を築くという最終目標に向けて、ひとつは企業の環境配慮的行動が企業経営の中に内部化できるのかその可能性について検討します。

CSRを超えて

現在、企業にはCSR(Corporate Social Responsibility: 企業の社会的責任)というのが求められるようになりました。本業においては、工場で使用する水を回収水で賄うようにして水の使用量を減らしたり、途上国の社会や環境に配慮した原料調達を行ったりする他、本業とは関係なく、山に木を植えたり、地域の環境保全活動を行ったり、環境保全活動を行うNPOに献金したり等々、さまざまな活動を行っています。しかし、企業は利益を出し続けなければ存続できません。厳しい競争環境の中で「乾いた雑巾を絞ってやっと生み出したお金」をそうやすやすとCSRにつぎ込む訳にもいきません。そこまで言わなくても「CSRといっても、いったいどこまでやればいいのか」と言いたい企業は多いでしょう。しかし、それでも企業がCSRに取り組むのは、そのことが企業の存続に必要だからです。ならば、CSRへの取り組みが企業の存続をどう左右するのかについて明らかにする必要があるはずです。

企業が行うさまざなま環境配慮活動を企業戦略として再評価して、その内部化の可能性を検討します。

環境配慮活動の成果の内部化

企業が環境配慮的な活動を行うことが、企業の収益性を高める、あるいは企業の存続させる、さらには企業価値を高めるということであれば、企業は政府に強制されなくても自律的に環境配慮的な行動をとるはずです。環境マーケティング論では、企業がとる環境に関わる市場戦略を検討し、その効果と可能性を検討します。

 

環境マーケティング論では、消費者の選択行動に着目し、それを左右するライフスタイルや価値観、その変革の可能性を検討します。

消費者の価値観・ライフスタイルの転換

しかし、こうした企業戦略も、それを消費者が支持してはじめて成り立ちます・そこで、環境マーケティング論では、もう一つの柱として、環境配慮的な製品や活動を支持する消費者の行動に着目します。環境配慮的な企業や製品をを支持する消費者の意識や価値観はどうなのか、そうでない消費者は何が違うのか、そうた消費者を増やすことができるのか、現在の大量消費を指向する消費者の価値観やライフスタイルを環境配慮的なものに転換できるのか、という問題を扱います。

そうした消費者意識や行動の転換を目指したとして、企業やその他の主体がどう消費者に働きかけたらよいのかが問題として残ります。その手段には、単なる情報提供から、直接的なプロモーション、環境認証やそれを示す環境ラベルなどがあります。時には、企業活動を批判する人たちとの直接対話があるかもしれません。いずれにせよ企業の環境への取り組みの成果は、一部を除いては、なかなか消費者の目には触れません。企業が環境に配慮しているのかしていないのか、消費者が識別できて納得できるコミュニケーションが必要です。環境マーケティング論ではこうした問題も主要課題となります。

いかがでしょうか? 環境問題を超えて持続可能な社会を築くために、環境マーケティングというのも必要だという気がしてきたでしょうか。次に、環境と農業との関係を例として、これまでの説明を具体的な話として復習してみましょう。

>>環境と農業