プロフィール

吉野章 AKIRA YOSHINO
1991.3 京都大学大学院農学研究科博士課程中退
1991.4-2002.3 京都大学農学部/大学院農学研究科助手
2002.4-2008.4 京都大学大学院地球環境学堂助手
2008.5- 京都大学大学院地球環境学堂准教授
京都大学博士(農学)
所属学会:日本農業経済学会,農業情報学会,農村計画学会,環境経済政策学会,等

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研究1:農産物マーケティング

青果物マーケティングに関する課題を計量経済学的手法で研究しています。青果物の品質の違いや青果物産地の販売対応の成果が,青果物産地の市場競争にどのように現れるかは,青果物の産地の非常に大きな関心事です。また,それだけでなく,青果物の品質をめぐる競争を観察するということは,消費者の青果物選択行動を捉えることでもあるので,それを通じて食生活や食文化を考えることにもつながります。
そうした課題の中で特に,青果物の品質をめぐる競争の成果を定量的にどう捉えるかについて研究しています。青果物の品質評価は,規格格付のような客観的な値として観察できるものではなく,もっと曖昧で移ろいやすいものです。こうした青果物の特性を踏まえたモデル化が必要です。これらを考慮して,消費者の選択行動モデルと整合的な青果物の需要分析モデルを導きました。

  • 吉野章「青果物の商品価値評価の計測手法-離散・連続型選択モデルによる定式化-」『農業経済研究』69巻3号,1997.12, pp.152-165

この分析モデルを用いて定量的な分析を行うには,やや統計学的な知識を必要としますが,青果物産地が,卸売市場の取引データだけを使って,広義の品質競争力(商品価値競争力)まで含めた市場動向を定量的に観察できるような簡易システムを開発しました。

  • 吉野章「青果物産地のための市場動向分析システム」『システム農学会』21巻3号, 2005,pp.177-198.

この分析システムは,株式会社ベアールートシステムの協力でExcel(R)上で利用可能なアプリケーションとして具体化されています。
ここから無償でダウンロードできます。: 青果物市場動向分析システム
この分析システムは,すでにいくつかの地域農業の診断や計画づくりに活かされています。

  • 『JA西邑楽 営農総合診断報告書』JA群馬中央会 19993.
  • 『JAはぐくみ 営農総合診断報告書』JA群馬中央会 2000.10
  • 『JA赤城たちばな 営農総合診断報告書』JA群馬中央会 2001.1
  • 『JAたのふじ 営農総合診断報告書』JA群馬中央会 2001.10
  • 『JA群馬板倉 営農総合診断報告書』JA群馬中央会 2003.3
  • 『JA新田郡 営農総合診断報告書』JA群馬中央会 2003.12
  • 『ファーマーズマーケット等調査報告書』京都府農業協同組合中央会 2007.3

マーケティングに関連する研究として,ブランド化の問題や市場流通,産地間競争等についても研究しています。

  • 吉野章「ブランド化戦略と地域農業マネジメント」武部隆・高橋正郎編『地域農業マネジメントの革新と戦略手法』,農林統計協会,2007,pp.156-172
  • 『畜産物需要開発調査研究事業報告書』畜産振興事業団(主査 嘉田良平)1995.3
  • 『市場統合の農産物貿易および地域農業に及ぼす影響に関する国際比較調査研究-EU諸 国を対象として-』(財)農業開発研修センター(主査 嘉田良平)1995.3
  • 『市場統合の農産物貿易および地域農業に及ぼす影響に関する国際比較調査研究- NAFTA 諸国を対象として-』(財)農業開発研修センター(主査 嘉田良平)1996.3
  • 『国際化時代における青果物産地の生産・流通戦略に関する調査研究』日本中央競馬会: 新政策推進調査研究助成事業(主査 藤谷築次)1996.3
  • 『EC統合下の農産物流通の再編に関する実証的・政策的研究』文部省科学技術研究費補助金(主査 藤谷築次)1997.3
  • 吉野章「青果物産地の生産販売計画のための需給動向分析」『農業計算学研究』第26号,1993.12,pp.151-160

研究2:環境リスクコミュニケーション

主にリスクコミュニケーションのゲーム理論的分析を中心に,環境リスクや食品安全の問題を研究しています。環境保全や開発をめぐる社会的合意形成やガバナンスでは,それらに伴う環境リスクに対する認知や価値観の違いが,利害の対立や情報の非対称性の問題と絡まって問題を複雑にし,解消しがたい不信や対立を生み出すことがあります。食品安全行政においても,偶発的な事故が意図しない消費者の不信を招き,行政の信頼を失墜させてしまうことがあります。
現在,リスクコミュニケーションといえば,リスクに関する関係主体間の双方向的な情報交換過程として理解されることが多いのですが,我々はそれを一歩進めて,こうした環境リスクや食品リスクが関係する社会的合意形成のための前提を確保する手段として,リスクコミュニケーションの問題を研究しています。
例えば,ゴミの焼却場の建設をめぐる行政と住民との対立において,行政が住民の非合理な反対を恐れ,住民が焼却場の安全性を疑っているような場合,お互いが健全な話し合いを通じて合意に至るためには,話し合いの前に,お互いに相手がどのような認識でどういった懸念を持っているかを知る必要があります。もし,その前提が満たされなかったら,話し合いの過程で片方の言動が相手に予期せぬ誤解を与え,不信や対立を深めてしまいます。

我々は,同じ環境リスクに対して,多様な関係主体がそれぞれどのような認識と懸念を持っているかを,関係主体間相互に理解しあうことの重要性を訴え,それこそがリスクコミュニケーションの最大の目的であると主張しています。その根拠として,ゲーム理論における「共有知識(Common Knowledge)」の理論を使っています。

  • 吉野章「環境リスクコミュニケーションにおける共有知識の役割」『環境ガバナンスにおける合意形成と利害調整プロセス』(日本学術振興会科学研究費報告書:代表松下和夫),2007.3

その他,関連する研究として,企業の環境改善を促すマネジメントシステムの経済学的理解や,その一環である環境コミュニケーションに関しても考えています。

  • 吉野 章「ISO14000sの経済学的理解と農業部門における意味」『2003年度日本農業経済学会論文集』2003.11, pp.308-313
    報告資料(PDF:388KB)
  • 森永麻美子・吉野章・北野慎一「環境ブランドイメージ形成におけるWebデザイン効果-林業関係の企業サイトを事例として-」『環境情報科学会論文集』 No.18, 2004.11, pp. 471-476

研究3:食品安全政策の経済評価

BSEが発生して以来,日本人の食の安全に対する信頼は大きく揺らぎました。この反省から政府は,欧米の「リスク分析」という考え方を取り入れた食品安全基本法を制定し,新たな食品安全行政をスタートさせました。この「リスク分析」というのは,科学的なリスク評価とシステムマネジメント的なリスク管理を行い,リスクコミュニケーションで関係主体の意思疎通を図るというものです。
しかし,BSEの問題でもわかるように,食品のリスクは,科学的に評価できない部分も多く,その管理が確実に行われているかどうかを,消費者が確認できるものでもありません。リスク分析は,食品リスクの評価と管理をできるだけ効率的・客観的に確実にする方法ですが,このような理由から,それだけで消費者の安心が確保できるというものではありません。
現在,政府は食品リスクの評価や管理について,消費者と積極的なコミュニケーションを図ろうとしています。しかし,残念ながら,消費者のリスクコミュニケーションに対する態度はきわめて消極的なようです。これは,政府とのリスクコミュニケーションの有用性にあまり期待が持たれていないことと,特定の食品なのだから,危なそうだったら食べなければいい,といった意識がその理由にあるようです。これは,非常に厳しい対話が繰り返される環境コミュニケーションと最も異なるところです。
我々は,「リスク分析」的食品安全行政の大切さを十分認めながらも,こうした工学的リスク管理に社会科学的な視点を加えて,消費者の安心を高める食品安全管理とリスクコミュニケーションのあり方を考察しています。
BSE騒動で政府がそうであったように,一旦失われた信頼の回復は容易ではありません。それは,なぜなのか,信頼回復にはどうしたらよいのかについて,ゲーム理論で分析しました。そして,本来の目的とは別の視点から,食品安全委員会設置の意義づけを行いました。

  • Yoshino, A., T. Takebe and H. Takeshita, Difficulty in Restoring Public Confidence in Risk Communication –Japan’s Experiences of BSE–, The 3rd World Congress of Environmental and Resource Economists, 2006.7.
  • 吉野章・竹下広宣・児玉剛史「食品安全性に関する政府発表の信頼性」『2002年度日本農業経済学会論文集』2002.11, pp.218-220
  • 吉野章「ゲーム理論によるBSEのリスク分析」『食料・農業の危機管理に関する社会科学的アプローチ』, 農林水産省農林水産政策研究所, 2004.7, pp.191-207
    報告資料(PDF:351KB)
  • 吉野章「安全な食品を購入するためのシステム」『農林統計調査』2002年3月号,pp.23-29

また,現在,食の安心確保のあり方について,研究室をあげて取り組んでいます。昨年は,消費者のBSEに対する不安に直接向かい合うことを目的として,アンケート調査の分析に取り組みました。そして,今年度は,そうした研究を継続・発展させるとともに,著しく低い発生確率のリスクを分析するための理論研究を進めています。

  • 吉野章・中島有紀子・南口晶平・山根史博・竹下広宣「BSEに関する対消費者リスクコミュニケーション」『2006年度日本農業経済学会論文集』2006.12,pp.166-173
    報告資料(PDF:414KB)
  • 『消費者の食品安全に関する需要分析 平成17年度中間報告書』京都大学地球環境学堂資源利用評価論分野(代表 武部隆)2006.3

研究4:地域農業組織の契約理論的研究

地域農業組織は,農業生産者と,JA等の農業団体,それに行政等の関連機関を中心に,取引業者や地域住民,消費者なども含めて,時には強く,時には緩やかに,結び付きで成り立っています。こうした組織関係をどう分析するかは,これまで永年の課題だったのですが,最近,ゲーム理論や情報の経済学の発達で,多くの経済学者が組織問題に取り組むようになりました。その結果,「組織の経済学」あるいは「契約理論」と呼ばれる分野が発達し,組織形態や組織構成員の合理性,さらには望ましい組織のあり方についてこれまでにない知見を与えています。

我々は,これまで理論的基礎の乏しかった地域農業集団の組織形態の多様性を,契約理論的に分析していますが,それは最終目標ではなく,契約理論的な分析を試行的に行ったにすぎません。目標は,もっと多くの研究者が,種々の地域農業組織の問題を契約理論的に分析し,農業経済学の分野でも組織問題が理論的基礎をもって分析されるようになることです。契約理論の学習ノート(PDF;136KB)

  • 吉野章「契約理論を用いた地域農業マネジメントの革新」武部隆・高橋正郎編『地域農業マネジメントの革新と戦略手法』,農林統計協会,2007,pp.156-172
  • 吉野 章「契約理論を用いて地域農業マネジメントを革新する」『地域農業経営戦略研究』2号, 2004.5, pp.23-32
    報告資料(PDF:414KB)
  • 武部 隆・吉野 章「農業組織の多様性と安定性-地域営農集団の契約理論的理解-」『2003年度日本農業経済学会論文集』2003.11, pp.157-159
    その他,地域農業問題を分析した研究成果に以下のようなものがあります。
  • 吉野 章「野菜の産地移動とその要因」『農業と経済』58巻4号, 1992.4, pp.29-37
  • 吉野 章「イ草の産地移動とその要因」『農業計算学研究』25号,1992.12, pp.89-98
  • 吉野 章「園芸経営発展の現状」, 藤谷築次編『日本農業の現代的課題』, 家の光協会, 1998.5, pp.140-154
  • 吉野章・濱田秀和・藤栄剛「農協経営に対する農業生産拡大の波及経済効果の経済分析」『2004年度日本農業経済学会論文集』2004.11, pp.96-101.
  • 『日本農業の担い手の将来像に関する総合的研究』平成6年度文部省科学研究費補助金 (主査 藤谷築次)1995.3

研究5:環境/資源利用の経済評価

環境や資源利用の経済評価を計量経済学的アプローチで研究しています。環境の社会的マネジメントは,外部性の問題故に,市場メカニズムだけに頼るわけにはいかず,環境経済学が生み出した市場化の手法や,市場への積極的な情報提供を行う必要があります。そのためには,個々具体的な環境改善がどれだけの社会的便益をもたらしているかを実際に測る必要があります。この作業は,社会的環境マネジメントを実践する上で,たいへん重要であるにもかかわらず,信頼できる評価値を求めることは容易くありません。
こうした環境評価をできる限り正確に行うために,計測手法の改善を積極的に行っています。

  • 山根史博・浅野耕太・市川 勉・藤見俊夫・吉野 章「熊本市民による地下水保全政策の経済評価―上下流連携に向けて―」『農村計画学会誌』22巻3号,2003.12, pp.203-208
  • 山根史博・吉野 章・上野健太・渡邉正英・浅野耕太「表計算ソフトによるレクリエーション・サイト評価の実証的検討」『農村計画論文集』第6集, 2004.11, pp.13-18
  • 上野健太・吉野 章・北野慎一・浅野耕太「農業農村整備により創出された利用価値の受益範囲-事業評価のためのGISの一活用法-」『農村計画論文集』第6集, 2004.11, pp.157-162
  • 北野慎一・吉野章・上野健太・浅野耕太「身近なリクリエーション・サイト評価におけるアクセス費用の諸問題」『環境情報科学会論文集』 No.18, 2004.11, pp.309-312.
  • 山根史博・吉野章・上野健太・北野慎一・浅野耕太「表計算ソフトでできるレクリエーション・サイトの環境質の改善の経済評価」『環境情報科学会論文集』No.18, 2004.11, pp.277-282.
  • 上野健太・吉野章・浅野耕太「ノンパラメトリック・トラベルコスト法の内的妥当性のモンテカルロ実験による検証『環境情報科学会論文集』No.18, 2004.11, pp.283-286.

社会的活動

農協組織や行政の行う地域農業振興計画づくりに参加しながら,研究成果の実践や現場との対話を行っています。

  • 『利根沼田農業協同組合 総合診断調査報告書』利根沼田農業協同組合(主査 藤谷築次) 1995.3
  • 『新交通体系下における産地育成調査結果』徳島県(主査 藤谷築次)1991.3
  • 『福岡県園芸農業の新たな展開方向とJAグループの機能発揮および組織のあり方』(財) 全国農業構造改善協会(主査 藤谷築次)1994.3
  • 『大洲農協管内農業振興計画』(財)農業開発研修センター(主査 藤谷築次) 1994.3
  • 『JA西邑楽 営農総合診断報告書』JA群馬中央会(総括 吉野章)1999.3
  • 『JA嬬恋 営農総合診断報告書』JA群馬中央会(総括 吉野章)2000.3
  • 『JAはぐくみ 営農総合診断報告書』JA群馬中央会(総括 吉野章)2000.10
  • 『JA赤城たちばな 営農総合診断報告書』JA群馬中央会(総括 吉野章)2001.1
  • 『JAたのふじ 営農総合診断報告書』JA群馬中央会(総括 吉野章)2001.10
  • 『JAたかさき 営農総合診断報告書』JA群馬中央会(総括 吉野章)2002.3
  • 『JA群馬板倉 営農総合診断報告書』JA群馬中央会(総括 吉野章)2003.3
  • 『JA新田郡 営農総合診断報告書』JA群馬中央会(総括 吉野章)2003.12