回答者のリスク評価:食品からの被ばくについての消費者アンケート(2)

まずは、放射性物質汚染に対する不安を率直に聞いてみました。はじめは、食品以外で、土壌や空気中から受ける放射線の自身や家族の健康への影響についてです(図 6)。

図 6 土壌や空気中から受ける放射線のあなたやあなたの家族(同居)の健康への影響について、どのくらい不安を感じていますか?(SA)

当然、関東と関西とでは不安の度合いは違うはずなので、分けて見てみると、関東では、20.8%の人が「かなり不安」と回答しています。一方、「あまり心配していない」という人は37.7%です。6割以上の人がなんらかの不安を感じています。対して、関西では「11.5%」の人が「かなり不安」、38.1%の人が「やや不安」、「あまり心配していない」という人は50.4%でした。確かに、関東と比べると関西の人はあまり心配していない人が多いようです。しかしながら、この数字は、私たちが予測したものとはずいぶん違いました。関西では、ほとんどの人が「あまり心配していない」「なんでこんなアンケートを送ってくるんだ!」という反応かと思っていたからです。概要でも指摘したとおり、このアンケートは放射性物質汚染に関心の強い人からの返信が多くなる傾向にあるとは言え、なんらかの不安を抱えている人が半数近くいるというのは驚きです。極端に少なく見積もって、アンケートを返していただけなかった人全員が「あまり心配していない」人と考えれば、5~6%の人は不安に思って暮らしているということになります。この数字でも、関西で暮らしている我々にすれば、結構大きな数字です。

図 7 あなたは現在、食品や水に含まれる放射性物質のあなたやあなたの家族(同居)の健康への影響について、どのくらい不安を感じていますか?(SA)

次は食品や水に含まれる放射性物質に対する不安です(図 7)。図 6とほぼ同じ傾向で、食品や水の方が「不安」に思う人の割合はほんの少し多いようです。食品は全国に流通するものですし、原発事故直後の野菜や乳製品の出荷停止や、米やお茶、牛肉についての報道に接して、居住地に関係無く不安はあるのかと予想しましたが、土壌や空気中から受ける放射線に対する不安とほぼ同じでした。これは、どう理解したらよいのでしょうか?ひとつは、放射性物質の飛散が、(食品流通と同程度に)かなり広く受け止められているのかもしれません。あるいは、放射性物質の飛散がどのようになっているかや、放射性物質汚染のおそれがある食品や水がどの程度、どの範囲で流通しているかなど、そうしたことはよくわからないまま直感的に不安に思っているか、よくわからないからこそ不安に思っているのかもしれません。

こうした不安は、アンケートを配布した2011年末の時点のものですが、これは原発事故直後の3月末~4月頃と比べてどう変わってきたのでしょうか?(図 8)

図 8 今年3月末~4月頃(原発事故直後)に比べて、食品や水に対する不安は大きくなりましたか、小さくなりましたか?(SA)

関東、関西とも、「あまり変わらない」という人が最も多いですが、「不安は大きくなった」という人も関東では30.0%、関西では25.7%います。一方、「不安は小さくなった」という人が関東では18.4%いて、関西の6.2%よりも大きな割合になっています。しかし、もともと不安はどの程度で、その結果現在の不安はどうかによりますので、この結果を、図 7の結果とクロス集計してみました(図 9)。

図 9 現状での食品や水への不安(図 7)別に見た不安の変化(図 8)(N=722)

原発事故直後から今(2011年末時点)まで「あまり心配していない」の人の割合は、回答者全員(722名、無回答を除く)の27.4%です。残りの7割強の人は、これまで、多かれ少なかれ、なんらかの心理的な不安を感じたことになります。ずっと不安だったり、最初はあまり心配しなかったが、だんだん不安になったり、あるいは最初心配して今はあまり心配でなくなったり。やはり大きな事故です。

事故直後、野菜や乳製品、水から基準値を超える放射性物質が検出され、出荷停止が行われ、ペットボトルの水が店頭から消えるなどの混乱がありました。報道も毎日繰り返しこのことを取り上げ、4月ごろ、食品や水の安全性に対して、多かれ少なかれ不安を感じた人も多いと思います。何よりも福島第一原子力発電所の事故の経緯がどうなっているかもはっきりとわからない状況でした。

しかしながら、4月ごろに大騒ぎだった福島第一原発の近接県におけるホウレンソウ、コマツナなどの野菜の出荷制限は、すべて解除されています。(2012年現在、出荷制限が要請されている農林水産物は、福島県以外では、露地で原木栽培されるキノコ類、お茶などに限られています。正確には、厚生労働省「原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等」でご確認ください。)政府からは福島第一原発事故収束宣言が出され、マスコミの報道もだいぶ減りました。

こうした中で、「不安」から「あまり心配していない」となった人も多いかとも予想しましたが、これは全体の5.8%に留まりました。多少はマシになったものの「やや不安」のままという人でも9.1%です。

その一方で、5月も半ばになってから1号機のメルトダウンが発表され、12月に出された事故集束宣言についても新聞各紙をはじめとして疑問視する声も多数上がりました。食品においては、7月には放射性セシウムを含む稲わらが肉牛のエサとして流通するという管理体制の問題が明らかになり、10月には、安全宣言が出された福島市大波地区の米から基準値を上回るセシウムが検出されるなど、これらに関する報道で不安を増した人もいるはずです。

29.1%の人が4月ごろより「不安は大きくなった」と回答していますが、15.1%の人は、その結果、現在「かなり不安」を感じています。内訳はわかりませんが、その中には、事故直後、やや不安かあまり心配していなかったにもかかわらず、様々な情報に触れることで、「かなり不安」になった人もいるでしょうし、もともと「かなり不安」だった人の不安の程度がさらに増した人が含まれていると思います。

以上は、みなさんが、放射線被ばくの危険性をどう評価しているか、いわゆるリスク評価です。今回原発事故に伴う放射線被ばくのリスクについて、その評価が人それぞれということです。なぜそのような評価の違いが生じるのかを、どんな情報に接したか、どんな生活をしているか、もともとリスクを怖がる人か、どこに住んでいるか、年はいくつかなどとの関連を調べながら探っていく必要があります。そうすることで、それぞれの人が必要としている情報や伝え方が明らかになるはずです。リスクコミュニケーションの初歩の初歩です。

私たちは社会科学者であって、放射線や原発事故の危険性について、科学的・技術的に正確な知識を持っていませんので、こうした評価を、「過敏すぎる」とか「楽天すぎる」というように決めつけることはできません。BSE(いわゆる「狂牛病」)のリスクについて、しばらく研究してきましたが、そのときには、ほとんどの研究者が(BSEについて科学的な判断をできない社会科学者までも含めて)、「無視して良いようなリスクを怖がって、必要以上に牛肉を食べないとか、莫大な税金を投入するのはおかしい」という立場で発言していました。

今回は、さすがにそこまで高慢な主張をする人は少ないようですが、「科学的知識をしっかり身につけて、冷静に判断すべし」という基本的立場は同じような気がします。現在の暫定基準値の設定や食品の生産・流通管理は、科学的な判断に基づいています。ですから、その科学的判断を理解すれば、それを上回る知識や判断力を持った人は除いて、大半の人は、現在の対策に納得するでしょうし、不安も和らぐかもしれません。しかし、そんなものでいいのでしょうか?この点は、続いての設問に対する回答結果を見ながら、検討していきましょう。

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