環境と農業

農業にとっての環境

地球温暖化の影響

日本の平均気温平年差の推移
日本の平均気温は確実に上昇している

農業は自然環境とともにある、とは言うまでもないです。「地球温暖化」と言われます。上のグラフ、環境問題に少しでも関心のある人は、これまで何度も見せられてきたかと思います。それでは、こうした平均気温の上昇が、今のところどんな形で農業に影響しているのでしょうか?

最近の夏はとにかく暑いですね・・・。40度を超えが連日となるなど、尋常な暑さではありませんでした。こんなに暑いと、野菜もできません。葉物野菜は焼けるし、露地トマトは着果もしません。

それに大雨と台風です。2018年7月の西日本豪雨、台風12号、台風20号、台風21号と、降水量がすさまじく、広い範囲で被害が出ました。台風の後を追いかけて次の台風がやってくるという具合で、携帯電話から鳴り響く避難勧告、避難指示の警報にもうんざりしました。当然、農業にも大きな被害が出ました。そして2019年には関東から東北にかけての巨大台風の被害が・・・。

これが、数十年に一度たまたま生じた災害だったのか、地球温暖化の影響の始まりなのか、それはよくわかりません。しかし、平均気温が上昇していることだけは間違いないようです。

コメは、夏場の高温によって白濁化したり、胴割れしたりします。佐賀県と言えば、「佐賀段階」「新佐賀段階」と言われ、かつて高い反収を実現したところで有名ですが、そこで今コメがとれなくなっています。東南アジアで栽培される長粒種を栽培しようかというつぶやきも、半分本気に聞こえます。

果樹なども、例えばミカンは、暑すぎると皮が浮いたり、日焼けしたりします。リンゴやブドウは、高温すぎると着色が悪くなったりするそうです。

原発事故の影響

福島原発事故により、福島県および近隣県の野菜価格が下落し、それは数年経ってもなかなか改善しなかった。

農業が環境から受ける影響は、自然環境の変動だけではありません。東北の震災による原発事故は、環境や人の暮らしに甚大な被害をもたらしましたが、農業にとってもその影響は大きかったです。立ち退きを余儀なくされ農業をできなくなった土地、放射線検査の結果で出荷停止となった作物がありました。しかし、それだけでなく、福島近隣諸県の野菜産地の価格は大幅に下落しました。事故現場から相当距離が離れていても、検査で放射線が検出できないにもかかわらず、こうした地域の野菜は消費者に敬遠された結果です。そして、その影響は長期間に及びました。

農業は一日ではなりません。その土地の気候と作物との相性を見極めながら、農家は創意工夫をこらし、技術やノウハウが蓄積されていきます。土づくりにも多大な年月を要します。有機農業や自然農法の実践家には、それに何十年もかける人もいます。自然災害や人為的被害により、そうした農地が無に帰すことすらあります。

環境にとっての農業

人の手が入ることによる環境問題

農業が環境に与える影響
農業は,様々な形で土壌や水域,大気,生態系に負荷を与えている。

以上の話は、農業が環境から受けた被害の話でしたが、農業からも自然環境に負荷を与えています。農業というのは、豊かな自然環境の中で行われる環境と調和した産業かといえば、必ずしもそうとも言い切れません。

上図は、農水省がまとめた農業生産活動が環境におよぼす影響です。使用される農薬は生態系に影響し、肥料は河川から海へ流れ、地下水への浸透します。実際に農業に関わってみると、ビニールハウスに限らず、意外と多くのプラスティックを使い、廃棄していることに気づきます。緑豊かな水田やのどかな牛の放牧からも多くのメタンガスが大気中に放出されています。1

その他にも、農業は多くの資源を利用します。農業用機械や加温には必要です。化学肥料に必要なリンなども採掘に頼っています。そして、農業には何よりも水が必要です。地球は海で覆われていますが、私たちが利用できる淡水はそのうちのごくわずか、1%にも満たないと言われています。

人の手が入らないことによる環境問題

農業・農村の多面的機能
農業は食料を供給するだけでなく,農業があることで農村が成り立ち,農村があることで得られている便益がある。

農業は環境に多大な負荷を与えています。ならば、環境にとって農業は無い方がよいのかというと、そういう訳でもありません。現在、日本の農村では高齢化が進み、集落の維持すら困難となったところがたくさんあります。耕作放棄地も増えています。そうした農地は放置していたら自然に帰るように思うかもしれませんが、一度手を加えた土地を原生林に帰すには途方もない年月がかかります。自然環境をどう考えるかにもよると思いますが、日本の里山は、自然と共生した美しい景観を形づくってきました。そこに人が暮らし、生活文化を紡いできました。そうして受け継がれてきたものを無くすことの意味は、しっかり考えるべきことかと思います。

農業・農村は、単に食料を供給するだけでなく、さまざまな役割を果たしてきました。そうした機能は「農業・農村の持つ多面的機能」としてまとめられ、農業保護の根拠としてアピールされてきました。2

次で,こうした環境に対して農業が与えている負荷と,農業を保全する意味について考えていきましょう。

>>輸入される水:仮想水