消費者には見えない環境活動

環境マーケティングは、企業と市場とのコミュニケーションがあってはじめて成立します。企業の環境配慮行動が、販売する製品やサービスに具体化されるとは限らないからです。ハイブリッドカーのように、購入者に排ガスの低減を実感させるようなケースもありますが、生産過程や廃棄・リサイクルの環境負荷の低減は、消費者には直接見えません。資本市場の投資家や労働市場の就業希望者にもなかなか見えません。CO2排出をどれだけカットした生産をおこなっているかとか、地下水をどれだけ大切に使っているかとか、リサイクル率がどれだけだとか、消費者は、聞けばわかるかもしれませんが、聞かないとわかりません。

環境会計

そこで企業は、自らの環境への取り組みについて、市場に積極的な情報発信をしていく必要があるのです。その方法のひとつが環境会計やそれを記載した環境報告書です。環境会計は、通常の財務会計に表れない企業活動に伴う環境への負荷や貢献度、ならびに、それに伴うコストを、物量単位や貨幣単位で数値化して明示するために用いられます。それを見ると、もともとどの程度の環境負荷を与えている企業が、どれだけの努力をしてどの程度の環境影響を節減しているかを理解することができます。環境会計は、企業の社会や利害関係者に対する説明責任としての役割もありますし、企業自身が自らの活動と環境との関係を定量的に理解するのにも役立ちます。望むらくは、市場からの企業収益への還元までが環境会計に含まれれば完璧なのでしょうが、それはちょっと難しそうです。環境会計は、一般の財務会計のように、その手法が確立されたものではなく、その目的や定量化の方法において違いが生じます。環境省は「環境会計ガイドライン」というのを公表して、環境会計の普及と確立に努めているようです。

環境報告書

環境報告書は、企業の環境への取り組みを利害関係者や社会に説明するためのもので、当然、環境会計の情報も含みます。環境会計は、企業間の相対的な比較のために重要な定量的な情報ですが、環境報告書には、企業の環境に対する考え方や取り組みなど、定性的な情報も盛り込まれるのがほとんどです。最近は、環境以外の社会的責任に関する事項も含め、CSR報告書であるとか、サステナビリティレポートといった言い方で報告されることも多いです。大手上場企業であれば、ほとんどの企業がHPから誰でも読めるようにしているはずです。パフォーマンス的な取り組みだけではなく、こうした報告書を読めば、当該企業の環境への取り組みの具体が一層よくわかるようになるはずです。

エコラベル

エコラベルというものがあります。「地球にやさしい」マークをよくみかけますが、あれはマスコット的なマークではなく、一定の基準に基づいて、ライフサイクルにわたって環境保全が考えられた商品であると認められた商品につけてよいことになっています。紙に書いてある「R100」とかのマークは、再生紙の使用率を示しています。こういうのは、すべてエコラベルというもので、商品そのもものではわからない環境への配慮を示すものです。さまざまな種類があり、環境省がまとめて紹介してくれています。商品の買い手は、エコラベルのついた商品を見ることで、環境に配慮された商品を購入することができます。

EMS登録

ISO14001の登録情報もひとつのコミュニケーションツールとなります。ISO14001というのは環境マネジメントシステム(EMS)の規格のひとつで、第三者登録機関によって、当該企業が、環境影響にかかわる法令を順守し、汚染を予防し、環境パフォーマンスを継続的に改善していくための管理体制が構築され、運用されているかどうかが審査されますので、この審査をパスしておれば、その企業のEMSは一定以上のクオリティが確保されていることになります。ISO14001登録を対外的に示すことで、このことがアピールできます。ただし、ISO14001の本来の趣旨は、企業のトップが、EMSを本気で構築・運用しようと思ったとき、それを確実にすることを助けるというものですので、ISO14001が当該企業の環境パフォーマンスに責任を持つというものではありません。第三者認証も必須ではなく、自分のところでEMSの監査を実施できるなら、自己宣言でも全然構わないはずなのです。ISO14001が日本の企業に導入されるようになって10年以上経ち、そろそろ自己宣言でよいとする企業もちらほら出てきました。

プロモーション

こうした、どちらかといえば客観的な情報発信だけでなく、企業は、Webサイトから企業の環境に対する理念や取り組みを語ることができます。企業のHPをみると、「環境へのとりくみ」といったページが設けられているところも珍しくなくなりました。ただし、なかなか、理念だけ語っても、それをまじめに読んでくれる消費者も少ないでしょうし、たとえ読んでも、それを文字通り受け取る人も少ないないでしょう。「わが社は地球環境の保全に貢献していきます。」と言われても、・・・で、実際どうなの?と問い返されるだけです。ですから、Webサイトでは、環境について関心のある消費者の疑問に答えるような情報や、消費者が抱いている問題を解決するような情報の提供することで、消費者に目を向けてもらい、そうした”語り”を通じて企業の環境に対する姿勢を示すといったものが多いようです。たとえば、速見林業のHPでは、バーチャル森林ツアーというのがあって、サイト上で森巡りをすると、持続的森林経営について理解が深まるものとなっています。

環境マーケティングにおけるコミュニケーションは、こうした代表的なものに限らず、消費者の消費者向けだけではなく、従業員や取引相手、利害関係者など、さまざまな関係主体向けのものがあり、それぞれに目的も違うのですが、消費者向けだけに限っても、他にもいろいろなものがあり、事例集を経済産業省が提供してくれています。

>>環境マーケティングの目標と課題