記述統計:家計調査2020年(1)

家計調査2020年消費支出を記述統計する

総務省「家計調査」の消費支出のデータをダウンロードしたので,その概要を少し眺めてみました.

いつもは各都道府県の好みを見たいためだけにいじっているデータです.しかし,昨年からコロナで,健康も脅かされていますが,生活も経済もたいへんです.その状況を知りたいと思いました.

なお,データはすべて総務省「家計費調査」のデータをe-Statからダウンロードしたものです.ダウンロードには,Rの ライブラリestatapiを使わせてもらいました.以下,出所の記載は省略します.

消費支出の変化

エリアグラフ

2015年以降の消費支出の変化を示しています.緊急事態宣言が出た4~5月の支出の減少からその後回復が確認できます.

品目の分類を示していますが,こういうグラフでは,よほど単純でないと個々の品目の動きは判然としません

いろんな費目が減る一方で,増えたもののあります.結局,消費支出全体としては増えたのか減ったのかを知りたいときのグラフということでしょう.

グラフを自分ではきれいに配色したつもりでも,印刷や投影した場合に見にくい場合があります.色覚に支障がある方にもやさしくない場合もあります.その点にも注意が必要です.

費目(大分類)別の変化

各費目の時系列変化を同時に比較した折れ線グラフ

費目(大項目)ごとに,その推移を折れ線グラフで表しました.

個々の費目が増えた,減ったと言われているけど,消費支出全体の中でどのくらいの動きだったのか?というのが知りたいときには役立ちます.

しかし,並べられる線の数には限界があります.上の方は線が分離しているので見やすいですが,費目が10種類もあると,下の方は判読がだいぶ怪しくなっています.

右側に凡例を示していますが,漫然と並べるのではなく,凡例とグラフの並びをおおよそ一致するように並べると親切かもしれません.

食料支出については,大きな変化は見られません.外食への支出は大きく低下したはずなのですが,その一方で家庭内で消費する食料への支出は増えているはずなので相殺された形となっています.

その他の消費支出は2020年に入って低下しています.「その他」と名付けられていますが,これには,散髪や化粧品といった理美容サービス・理美容用品,交際費や冠婚葬祭,お小遣いといった結構出費の大きい費目が入っています.(こうした費目については,e-Stat統計分類・用語を確認してください.)

交通・通信費も低下しています.移動が減ったはずなので当然かもしれませんが,同時にバイクとか自転車買ってもこの費目に入れられます.

教養娯楽費の低下も大きいです.旅行はこれに含まれます.映画や劇場などの観覧,スポーツのやる方も見る方もこちらに入ります.一方で,テレビやゲームや楽器などを買う場合も含まれ,そうしたものを合わせてもこれだけのマイナスということです.

月別比較の折れ線グラフ

こうした費目は月ごとの変動が大きいので,年次変動を見るのが厄介です.そうした場合は,月別の比較が便利です.

ただし,同じ費目で,複数の線を描くので,いろんな費目を一度に描くのは厳しく,費目ごとに描くことになります.

食料支出

 

食料支出の変化です.12月は年末年始の買い物があるので,他の月と大きく違っていますが,それは毎年のことで,2020年も食料支出総額は例年とそれほど異なっているわけではないことがわかります.

各年の振れ幅が小さいので分かりにくいですが,古い年ほど線の色を薄く,新しい年ほど濃くしました.折れ線グラフはごちゃごちゃして見にくい場合も多いですが,これである程度見やすくなったのではないでしょうか.白黒でもある程度識別可能です.

ちなみに凡例に2021年が入っています.(2021年3月現在)データとしては2021年1月まであるのですが,折れ線グラフに表示できていません.もう少ししたら2月データが提供されるはずなので,そのデータも入れると1~2月の線が表示されるはずです.

その他消費支出

 

その他の消費支出です.交際費や理美容等の費目が入っています.自粛期間の4~5月の落ち込みが大きく,7月~10月も落ち込んでいます.しかし,12月はさすがに増えています.

交通・通信費

 

交通・通信費です.通学や通勤の定期代や旅行のうち鉄道運賃についてはこちらに入ります.

在宅勤務で通信に関わる費用が嵩んだ可能性はありますが,過去5年間と比較するとやや低い程度に見えます.ただし,交通・通信費は最近2年間はやや高い傾向にあり,2019年と比較するとだいぶ低いように見えます.

このように,2020年のような特別な年を,どの年と比較すればよいか,という比較基準の設定は難しく,前年といった単年と比較するならば,前年にも別の何かがあって,例年とは違う動きを見せていた場合,2020年の特徴は見えなくなります.過去複数年の平均と比較すると,そうした偶然の変動の影響は緩和されます.その一方で,年々増えているとか,減っているとか,傾向的な変動がある場合は,2020年の変化が,そうした傾向変動の延長であったとしても,特異的な動きとして誤認してしまう可能性もあります.そうした場合は,むしろ前年といった単年との比較の方が適切な場合もあります.いずれにせよ,こうしたグラフを描くと,そのどちらかであるか,ある程度識別できますね.

教養娯楽費

 

教養娯楽費です.大きな落ちこみが確認できますね.

過去5年間の動きを見ると,ある程度振れ幅はありますが,2020年との差を考えるとその幅は小さいように見えます.ですから,この場合は,5年平均ぐらいとの比較がわかりやすいと思います.

過去5年平均と比較した棒グラフ

2020年の年間消費支出を過去5年平均と比較しました.これにより,各費目がどのくらいの大きさで,どれだけ増えたか減ったかが一目してわかると思います.

月別の変動や過去のばらつきががわからなくなったりはするのですが,こうした情報を捨象することで,示したい情報がわかりやすく表示できることになります.漫然とグラフを描くのではなく,何を伝えたいかをはっきりさせてわかりやすいグラフを描くことが重要です.その際の注意点としては,およそ以下があります.

誰の視点から見たいのか?

上のグラフは各支出項目ごとにその変化が知りたい場合のグラフです.例えば,服屋さんが,家庭の財布の紐の固さを知りたい場合,「被覆及び履物」の支出の変化が知りたいわけで,そうした場合は,各費目の前年と比較した変化率などを知りたいと思うはずです.

その変化が誰にとってどんな意味を持つのかを考えてグラフを作成することも重要です.

どの情報を捨象するか?

上のグラフは,月別の変動量も過去5年間の変化の傾向もすべて捨象されています.

食費については,月別変動を見ると,12月に支出が急に増加するとか,いくつか読み取れる情報ありますが,2020年の支出が変化したか?という問いに対しては,そうした情報はあまり関係がありません.5年間の傾向変動もあまり見られません.なので,このグラフで十分です.なんなら2019年との比較だけでもよいでしょう.

その他の消費支出については,2020年は大きく低下したものの,6月や年末など,回復した月もあるという情報は捨象されます.傾向変動はないものの,年次変動はある程度あるので,過去平均との比較は妥当です.

交通・通信費については,傾向的に増加してた費目だったという情報が捨象されるので,その落ち込みは過小に判断されることになります.しかもその落ち込みが4~7月を中心としたものだったということもこのグラフからは読み取れません.

グラフを描く場合,作成する方は,あらゆる可能性を考えて,様々な角度からデータを眺めます.しかし,そうした検討したグラフをそのまま報告することは妥当ではありません.2020年の特徴を知りたいのに,特に毎年それほど代わり映えのしない月別変動を詳しく示されても生産的ではないわけです.

捨象できる情報はできるだけ捨象して,伝えたい情報をシンプルに表現することが肝心です.その上で,例えば,交通・通信費のように,例外的に捨象できない情報があれば,それを示すグラフ(月別年次変動のグラフ)を別途加えればよいのです.

もっとも,こうした大分類では,外食と内食のように,大きく減った費目と大きく増えた費目が混在しているので,最も捨象できないのはもうちょっと細かい品目構成ということになります.それについては,次回に続きます.

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