記述統計:家計調査2020年(3)

前回前々回のついでに,個別の品目(細目)ごとに増減を見てみましょう.
細目となると,約500品目が調査されているので,ひとつづず見ていくのは大変です.ひとまず,食料とその他の品目で分けて,支出が増加した品目と,支出が減少した品目,変化率と偏差値とで,上位50位,下位50位について眺めることにしましょう.

食料支出

支出が増加した品目(変化率,上位50)

チューハイ・カクテル,発泡酒・ビール風アルコール飲料,ウイスキー

チューハイ・カクテルの増加率が66.6%とダントツです.コロナ自粛の巣ごもり需要で家飲み,(最近問題にされている)路上飲みで,缶入りのチューハイを飲む人が増えたのか,ということですが,詳細を見てみると,この品目は経年的に急拡大してきていたことがわかります.私はビールの方が好きなので,あまりチューハイ系は飲みませんが,ビールの隣の棚やCMを見ていると,各社チューハイ系にだいぶ力を入れておられることは知っています.また,2020年10月には,酒税の改正で,競合品目の新ジャンルビール(ビール風アルコール飲料)の税率が上がり,こちらからに支出を振り向けた可能性もあります.

左上の折れ線グラフが経年変化で,傾向的に支出が増加していることがわかります.ただし,チューハイ系は季節商品であることもあり,月ごとの変動も大きいので,各年を月ごとに比較してみたのが右上の折れ線グラフです.1年の変化の傾向は似ていますが,各月とも年々増加していることがわかると思います.

一方,発泡酒・ビール風アルコール飲料は,増税前の9月に駆け込み需要(私も4ケース買いました)があったものの,家飲みとか言われながらも13.7%増と,それほど大きく支出額が増えたわけではありません.

傾向的に支出額が拡大しているところに発泡酒の値上がりがあり,そこにコロナで外飲みができなくなったことが加わったことで,これだけの増加率となったと思われます.ですから,この変化率だけを見て,「コロナでみんな缶チューハイに酒浸り」なんて早合点してはいけません.

ただし,ウイスキーについては,傾向的増加は見られませんので,2020年は,酒税体系の変化の影響はあるでしょうが,コロナの影響は確実にあったとは思われます.

このように,大分類や中分類での観察は,分類内での変化の相殺が起こり,傾向が見えにくくなる一方で,細目での観察は,品目固有の事情が変化を左右するので,単純な比較は判断を誤る可能性も出てきます.

なお,この個別品目の変化には地域差も大きく出る可能性があるので,都道府県別の変化率と偏差値の地図も添付しておきました.(もっとも,家計調査は各都道府県,県庁所在都市(と政令指定都市)での調査ですので,それぞれが各都道府県を代表するものと考えてください.)この場合,極端な地域差はないようですが,よく見ると都市部に増加率が高いような気もします.このあたりの分析も可能かもしれませんが,今回はこの点には深入りしません.

バター,他の乳製品,小麦粉

バターの増加率も35.5%と高い伸びを示しています.バターも,少しずつ支出額が伸びていた品目です.2020年は,4月から1か月間学校が休みになるなど,えらいことになりましたが,その間,お菓子作りやら,パン作りをやる人が増えたとか.バターが品薄になり,小麦粉(17.8%増),ドライイースト(他の調味料に分類,16.3%増)が手に入らないという時期もありました.こうした品目は,それほど需要が動く品目ではないので,突発的な需要の変化に流通が追い付けなかったのでしょうか.

しかし,バターの支出額の動きを見ると,確かに,4月と5月の支出額の増加は大きいですが,すでに2月ごろから支出額は大幅に増加しており,その後も前年を大きく上回っています.これは4月と5月だけ支出額が増えた小麦粉と対照的です.

バターには,代替品としてマーガリンがあり,安いし,パンにも塗りやすいので,マーガリンでいいや,という人も少なからずいます.しかし,最近は,トランス脂肪酸がどうのこうのとケチをつけられたりして,敬遠する人も出ています.(マーガリンへの支出額は年々減少傾向にあり,このコロナ禍でも支出額はほとんど増えていません).固いバターを扱いやすくするグッズなんかも百均で売られたりするようになりました.この数字だけではわかりませんが,こうし中で,バターに嗜好が移りつつあるのでしょうか.

他の乳製品に分類されるホイップクリームにも,植物性の安い代替品がありますが,これについても支出額が増えています.

ハンバーガー,すし(外食),中華そば

外食への支出が軒並み減少している中で,唯一ハンバーガーは32.4%の伸びを示しています.家計調査では,店内飲食だけでなく,テイクアウトであっても出前であっても,飲食店で提供されたものは「外食」に分類されています.その中で,Mのマークのお店の前に車の行列ができているなど,ずいぶん盛況だったような気がします.

ハンバーガーは,夏休みとか学校が休みの期間に支出額が増えているようですが,2020年は,投稿できなかった4月と5月も夏休み並みの支出が見られました.ただし,ハンバーガーへの支出は年々増えてきていて,2019もかなりの伸びを見せていたことから,ハンバーガーの伸びはその延長に,学校の休みが増えたことによるところが大きかったと思われます.

しかも,ハンバーガーなんて立って食えるしろものなので,別に店内飲食にこだわる必要もなく,コロナの影響は最小限に抑えられた外食だったのでしょう.(滋賀県と群馬県の伸びがやたらと多い理由はよくわかりませんが)

回転ずしやファミリーレストランなどの外食チェーン各社とも,テイクアウトに力を入れているものの,やはりコロナの影響はきつかったと思います.すし(外食)は,4月ごろにはかなり支出額が落ち込んでいますが,それから徐々に増加し,10月には Go to Eat キャンペーンの効果もあってか平年並みに回復し,その後も堅調のようです.あるチェーン店は過去最高売り上げを出したといったニュースも.すごいですねー.

ここ数年切磋琢磨で活気がすごかったラーメン業界ですが,中華そばの支出額をみると,やはりコロナがやや落ち着き,Go to Eat が始まった10月ごろにいったん回復していますが,それから再び低調となっています.この傾向は,スパゲティ屋さん(他の麺類外食に分類)も同じです.

支出が増加した品目(偏差値,上位50)

品目への支出額の変化を,過去5年間の標準偏差を10として偏差値に変換した値です.変化率が,主に売る方に関心のある指標であるのに対して,偏差値は主に生活者の視点ということでしたね.それに加えて,傾向的な変化も省けたりします.

変化率とは少し様相が異なります.変化率で上位にあったほたて貝チョコレート菓子炭酸飲料カップ麺が,結構下位に移動しています.これらは,そもそも傾向的な増加を見せていた品目であって,2020年だけが特異的に伸びたわけではないからです.

マヨネーズ

代わって,マヨネーズソース中華麺ソーセージケチャップベーコンパスタなどが高い値を示しています.品目名を見ただけで何を食べるようになったか想像がつく食材ですね.例年そんなに支出額が変わらい品目なので,2020年に少し増加しただけでも偏差値は大きくなります.例えば,マヨネーズだと,こんな感じです.

パスタ,即席麺,パン,米

4月の自粛期間中は,パスタも品薄というニュースがありました.当時感染者のいなかった岩手県,うどんで有名な香川県なんかの偏差値がやたらと高いのが気にはなりますが,それはさておき,例年月額100円前後が200円前後に増えただけなんですけどね.それでもみんなが買うと,流通としてはたいへんなんですね.

学校が休みだった期間は,子供にお昼ご飯を食べさせるのもひと苦労だったようで,その点パスタは,いろんな具材をからめて立派な昼食になりますから,手軽で便利だったのでしょう.その点では即席麺も,それに準じるのでしょうか.

一方,食パンも昼食用として活用できそうですが,サンドイッチとかつくるのは,それはそれで手間なのでしょう.パスタや即席麺ほどの伸びはありません.高級食パンブームが影響しているのか,2019年に結構支出が伸びていますが,そこから支出額はあまり伸びてはいません.

日本農業にとって気になるへの支出額ですが,3月4月でやや伸びたものの,その他はほとんど伸びていないか,やや減少です.外食需要が減っていることを考え合わせると,外で米を食べていない分が,家庭内のパスタや即席麺に置き換わったと考えるべきなのでしょうか.由々しき事態です.

なす,ピーマン,きゅうり

野菜はどうでしょう.上位にはなす,ピーマン,キュウリなどが入っています.いずれも自粛期間がかかる初夏から夏場に旬を迎える野菜です.

なすはベーコンと炒めてパスタにからめるとおいしいですね.

ピーマンは,ナポリタンとかピザに合いますね.

きゅうりは,サラダとかには手軽ですね.

結局,家でお昼を食べることが多くなった.その食材が伸びたということでしょう.特に,学校が休みになった期間のお昼は,親御さんたちはさぞかし大変だったようです.それにしても,日本のお昼はパスタが定番となりつつあるのでしょうか?

支出が減少した品目(変化率,下位50)

外食

支出の減少率では,やはり外食系が軒並み大きな減少率となっています.特に飲酒代は半減しています.

洋食和食の減少率も大きいです.ちなみに和食には,懐石料理,仕出し料理といった高級和食もありますが,丼ものなど庶民的なものも含まれます.意外なところででは,カレーラス,ハヤシライス,チキンライス,ピラフも和食に分類されています.

他の主食的外食には,ドーナツ,ピザなんかも含み,テイクアウトでまだ買いやすいものも含んではいるようですが,社食なんかもこれに入るので,集計するとこういう数字となるのでしょう.

他の麺類外食には,スパゲティが含まれます.家ではみんなパスタを食っていたようですが,外でパスタとなると,だいぶ減ってしまったようです.

さんま

気になるところでは,さんまとかいわしとかの魚介類の減少が大きいですが,これはコロナとは関係なく,経年的な消費減によるものです.外食産業は,2020年はひどい年でしたが,毎年それに匹敵するぐらいの日本人の魚離れが進んでいることも確認しておく必要があります.おいしいのに….

まんじゅう

まんじゅうとかカステラの支出額の減少率も大きいです.これも傾向変動かと思いきや,これは2020年特有のもののようです.お客さんへの茶菓子,お持たせ,お土産として,こうしたお菓子が利用されてきたが,対面での交流が減り,こうしたお菓子の需要も減ったということでしょうか?

支出が減少した品目(偏差値,下位50)

減少品目を偏差値で評価しても,和食中華食等の外食の減り方は尋常ではないことがわかります.偏差値評価は,生活者の視点で,どれだけ例年と違う食料支出をしたかという意味合いが強く出ますが,外食の少なさはここ数年で見て,ありえないぐらい少なかったと言えます.

一方で,さんまいわし等の魚の減少は,偏差値で見るとその幅はだいぶ小さくなります.つまり,2020年に購入額が減ったとはいえ,それは,これまで年々買わなくなっていた食生活の変化の延長線上にあるということです.

ジュース

意外なところでは,果実・野菜ジュースのマイナスが大きく評価されています.変化率としては,下位50位に入っていない減少ですが,例年ほとんど変化の無い品目であるため,わずかな減少が偏差値では大きく評価されてしまいました.偏差値の扱いにくいところでもあるのですが,そんなに変わらなかったものが変わったということは,それなりに注目してもよいのかもしれません.

ちなみに,在宅になって,炭酸飲料コーヒーミネラルウォーター,それに牛乳は支出が増加しているので,果実・野菜ジュースだけ支出が減少しているのは不思議な気がします.コンビニなどで買う小さいサイズのジュースではなく,スーパーなんかに置いてある大きなサイズのジュースが売れているという記事を目にしたことがあるので,購入単価が下がったのかもしれません.

食料以外(非食料支出)は次回へ.

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