記述統計:家計調査2020年(4)

前回に引き続き,非食料支出の細目ごとの増減を見てみましょう.

支出が増加した非食料支出

変化率,上位50費目

非食料支出は,特に耐久消費財について年々の変動が大きいので,今回のように単年比較をする場合は,その変化率には要注意です.例えば,今回増加率の最も大きかった自動車以外の輸送機器購入ですが,これには,バイクとかスクーターが含まれます.電車通勤を避けるための支出増も十分に考えられますが,平年の変動が激しく,都道府県別まで細分化すると支出が0となるところも含まれ,変化率が計算できません.

ベッドも全国では50%以上の増加率ですが,その変動を見てみると,2020年の10月に支出増だけが突出しています(何がどうなった?).しかも,地域的に増減はバラバラで全国的に増加したわけではありません.

家計調査の調査対象のうち,二人以上世帯の調査規模は8,000程度です.各県庁所在都市や政令指定都市については100前後となるため,たまにしか買わないような品目の単年度の都市別となるとこうした個々の調査事例の変動の影響を受けることになります.

偏差値,上位50費目

そこで,非食料支出については,偏差値のランキングを基本にその変動を見たほうが,2020年だけの特徴的な動きは見やすくなります.偏差値でその変化を評価した場合,2020年に大きな変動があったとしても,平年でも大きな変化がある品目であれば,偏差値としてはそれほど大きくはなりませんから.とはいえ,平年にほとんど変化しない品目については,わずかな変化でも大きな偏差値となるので,偏差値で大きい変化と思ったら,その変化はごくわずか,ということもありえます.

以下,個々の費目を見てみましょう.

マスク,電気歯ブラシ?,皮膚病薬?

保健用消耗品

偏差値でみた増加が最も顕著な品目は保健用消耗品で,これにはマスクが分類されます.これには皆さん納得でしょう.マスクはだいたいインフルエンザの時期ぐらいしか買わなかったのが,3月,4月にはマスク不足でたいへんでしたね.

理美容用電気器具

理美容用電気器具も38%の増加となっていますが,偏差値としても7番目ぐらいに高い伸びです.これには,ヘアドライヤーや電気シェーバーなどの他に,電動歯ブラシが分類されています.マスクで自分の口臭に気づいて購入する人が増えたとかなんとかテレビでやっていましたが,それなのでしょうか?実際,4~5月の自粛期間を経て,いざ登校,出社する6月に一回大きな山がありますね.

外傷・皮膚病薬

同時に,外傷・皮膚病薬の支出も29%増加しています.切傷,すり傷,やけどの薬の他,皮膚の疾患などの外皮用治療薬のことです.消毒殺菌剤・化膿止めなどが含まれるのですが,これはいわゆるアルコール消毒液ではないようです.アルコール消毒液もずいぶん入手に困りましたが,これは「他の医薬品」に分類され,すでに2019年から増加しています.マスクしていると肌が荒れるようなのですが,そのための薬っていうことでしょうか?

料理,園芸,ペット,DIY

炊事用電気器具

偏差値評価での増加費目の2番目には炊事用電気器具が来ました.電気炊飯器,トースター,ホームベーカリーなんかです(電子レンジは入りません).増加率では17%程度で,月々の変動も激しく周年的な変動パターンもあまりないのですが,年間で見ると2020年は確実に増えたようです.

他の台所用品

外食もままならない中,パン作りやいろんな料理を始める人も多かったとか.食器や鍋以外の台所用品で,包丁やまな板,計量カップやスケールなどの他の台所用品の増加も顕著です.

園芸用品

料理以外にも,急に野菜を育てだした人もいて,それほど顕著ではないにせよ,園芸用品への支出も増加が確認できます.ちょうど自粛期間と夏野菜の植え付け時期が重なったので,グリーンカーテン用に,ゴーヤやらキュウリを植えた人も多かったのでは?

ペット・他のペット用品,ペットフード

ペットを飼う人も増えたそうで,ペット・他のペット用品,***ペットフード***の増加が確認できます.

他の家事用耐久財

また,DIYに手を出す人もいて,電動のこぎりや電動ドライバーの売れ行きもよかったとか.これは他の家事用耐久財に分類されています.

室内娯楽用品

ゲームソフト等

ゲームソフト等は,例年12月にピークが来るのですが,2020年は3~4月の自粛期間中に一度大きな山が来ました.ダウンロードしたアプリなんかの料金も含まれています.

ゲーム機

一方,ゲーム機はそんなには増えてませんね.ゲーム機は,平年には12月にピーク来ていますが,2020年は8月に山が来ています.私はゲームをやらないのでよくわからないですが,2020年になんか新しいゲーム機でも出たんでしょうか?

テレビ

テレビは2020年は52%の増加率と大きいですが,そもそも,こうしたたまにしか買わない品目の年々変動は大きくいので,多少増えても偏差値としてはやや高いぐらいです.

ケーブルテレビの放送受信料

一方で,ケーブルテレビの放送受信料は,増加率はそれほど大きくないですが,2020年は確実に増加したことがわかります.

リモートワーク,遠隔授業関係

パソコン

2020年は,「リモート元年」と言っていいぐらい,いきなりリモート会議,リモート授業なんかが普及しました.大学の先生って,意外と新しいことをやりたがらないので,遠隔授業なんてコロナが無かったら普及するのに,少なく見積もってもあと10年はかかっていたと思います.その一方で,大学生なんかはパソコンが必要になり,大学が貸し出しなんかも始めたりはしましたが,大変だったようです.仕事している人も,リモートワークでパソコンの需要は一気に増えました.

インターネット接続料

それで問題になるのが,ネット環境ですね.リモートワークとか,遠隔授業では,スムーズな接続をするにはそれなりの環境が必要で,携帯のデザリングとかではどうしようもなく,インターネット接続料もかさんだようです.

他の通信機器

インターネットに接続するためには,さらにWifiルータなんかも必要になります.これらは他の通信機器に分類されています.

その他気になった費目

寄付金

以上のように,支出が増加した品目を見ると,コロナ対策,巣ごもり需要関係が多く,だいたい皮膚感覚に近いものとなっています.

その他で気になった費目として,寄付金が32%増加しています.コロナで互恵精神が高まったのか?…とびっくりしましたが,これには「ふるさと納税」が含まれています.なんだ,お取り寄せ感覚の返礼品需要じゃないか…

支出が減少した非食料支出

変化率および偏差値,下位50費目

支出が減少した品目も変化率と偏差値の両方で見てみましょう.

お出かけ系

外出や移動に伴う支出は軒並み減少しました.その中で,今日は休みだし○○行こうか,とか,今度○○が行われるから行こうか…的なお出かけ系の支出の減少が目立ちました.

文化施設入場料

偏差値で見ると,美術館,博物館,動物園,社寺など,文化施設入場料の減少が最も大きく評価されています.2020年の4~5月は,各地の文化施設の閉館が相次ぎました.こうした支出は例年ほとんど変わらないだけに,偏差値としては大きく出ることになります.次に紹介する旅行関係費用は,確かに大きな減少率で,関係業界としては深刻な打撃を受けましたが,家計としては,毎年同じように旅行しているわけでないので,「今年は行けなかった」で済む問題です.しかし,こうした文化施設へは,行く人は行くし,行かない人はいかないのかもしれませんが,少なくとも毎年行っている人にとっては,例年にはない生活の変化で,たいへん寂しい年だったということになります.

映画・演劇等入場料

エンタメ系,つまり,映画,演劇,コンサート,落語などは,コロナが拡大し始めた初期に,ライブハウスでのクラスターが問題とされたこともあり,興行が厳しく制限されました.オンライン配信とか苦肉の策もとられました.その後興行は再開され,鬼退治の映画なんかも大ヒットしたりはしたのですが,人数制限などもあり完全復活とはいけていません.

スポーツ観覧料

野球,サッカーなどの観戦もエンタメと同様の傾向です.野球などは開始を遅らせたうえに,無観客試合とかもありました.夏場がシーズンだけにきつかったですね.

遊園地入場・乗り物代

千葉のネズミの楽園や大阪のアメリカっぽい遊園地とか大人気ですが,ここも休園を余儀なくされました.再開しても人数制限や時間短縮で,経営としても大変だったようです.

他の入場・ゲーム代

観光地のリフト・エレベーター料金,納涼船・遊覧飛行料金,観光地の乗馬料金などと,パチンコ,マージャン,ビリヤードなどの料金が費目として一緒にされています.性格はだいぶちがいますが… 後者,特にパチンコは,コロナ感染拡大初期において,ライブハウスに次いでクラスター発生が懸念され,休業を強要されました.各店の対策もあってか,もともとものすごい換気設備のかいあってか,パチンコ店でクラスター発生のニュースは耳にしませんんえ.とはいえ,このご時世,パチンコにはなかなか行きにくいですよね.

旅行関係

人々の移動が制限される中,旅行・観光関連業はたいへんな打撃を受けました.7月末からはGo to トラベル事業が始まり,10月からはさらに地域共通クーポン券も付与されることになりました.

外国パック旅行

とはいえ,外国への行けないわけですから,外国旅行はほぼ皆無となってしまいました.

国内パック旅行

国内旅行は,Go to トラベル事業の効果があり,10月には持ち直します.しかし,コロナの感染拡大を受けて,12月には再び大きく落ち込むこととなりました.

宿泊料

宿泊料単体については,がっつりした旅行ではなく,Go to トラベルを利用して,近場でホテル宿泊するなども増え,8月にはある程度支出が増えています.それでも例年の半分ぐらいですね.

航空運賃

飛行機は,外国旅行ほどゼロにはなっていませんが,国内でも大きな移動は避けられていることから,利用は減ったままです.Go to トラベル事業もあまり関係なかったようです.減便もずっと続いていますね.

鉄道運賃

鉄道運賃は,国内パック旅行と同傾向で,やや穏やかな変動となっています.

バス代

バスの利用も減って,落ち込んだままですね.

他の交通

カーフェリー, 貸切・見学バスなどです.小中学校の修学旅行もあきらめざるを得ない場合も多かったようですが,感染拡大が収まった時期に行先を近場に変更して実施した学校もあったとか.平時ならしばしば行われていた貸し切りバスでの研修や見学などは,ほとんど行われなかったのではと思います.

旅行用かばん

コロナで旅行・観光業界の大変さは伝わってきますが,旅行に関係する他の業種も大変だったかと思います.例えば,旅行かばんへの支出は,平年の62%減少.旅行しないのだから致し方ないとはいえ,きついですね.

温泉・銭湯入浴料

日常的に銭湯を利用する人は年々減ってきていますが,日本人なのでいくらコロナでも温泉には入りたいですよね.遠くでなくてよいから近場のスーパー銭湯でも…と思うでしょうが,それでもなかなか行けないというのが2020年でした.

通勤・通学

2020年は,大学は4月からいきなり休講で,授業が再開しても遠隔でした.すでに大学で仲間をつくっていた2年生以上は,いちいち学校に行かずに授業を受けられるので,それはそれでよかったという人も多かったようですが,1年生については,学校に来ないので,仲間もできず,部活やサークルにも入れず,本当にかわいそうでした.

働いている人は,リモートワークということで,日本の働き方が大きく変わりました.たまにしか会社に行かないので,郊外に引っ越したり,逆に通勤距離を短くしたいからというので,都心に引っ越したり.

鉄道通学定期代

通学定期代というのはだいたい半年更新で,4月とその半年後ぐらいにピークが来るのが平年ですが,2020年は低いままです.小中高校は,6月ぐらいから授業は再開されたのですが,鉄道通学代は大学生のものが大きいということでしょう.

バス通学定期

バスの定期代も鉄道の定期代と似たような動きです.

背広服

通勤に必要なものと言えば,男性の場合背広ですが,これも自粛期間は大きく減りました.9月以降は,平年よりは少ないとはいえ,かなり回復しています.もともと背広への支出は傾向的に減少してきてはいたようですが…

ブラウス

ブラウスへの支出も自粛期間中は大きく減りました.これも9月以降は平年並みに回復しています.

口紅

マスクするので口紅の購入額が減ったと耳にしたことがありますが,年間で約31%の減少でした.コロナの影響がそれほどなかった1~2月の支出が含まれているので,それ以降はもうちょっと大きな減少です.とこで,初めて気づきましたが,口紅って秋から冬にかけて支出額が増えるんですね(なぜ?)

男子靴

通勤・通学関係でもう一つ目立ったのが男子靴でした.減少率としてはそれほど大きくないですが,学校が休みになた4月,5月の支出減が例年にない動きでした.減少率としては,男子用上着,男子用コート,男子用セーターの方が大きかったです.それにしても,なぜ男子か,ということですが,動きが激しいのでしょうか,扱いが雑なのでしょうか.男の子の親は大変です.

習い事の月謝

お出かけや旅行の支出減少はすでに知られているところですが,外出自粛ということは習い事も足が遠のくということで,この支出もだいぶ減ったようです.

語学月謝

語学こそオンラインでなんとかなりそうな気もするし,オンライン授業が一番先行していたところかと思っていましたが,それだけでもないようで,4月,5月の自粛期間中はだいぶ落ち込みました.年間で31%の減少ですが,このところ比較的安定していただけに,偏差値としては大きな減少となりました.

音楽月謝

音楽などはオンライン授業は難しいでしょうね.4月,5月は授業が行われない音楽教室も多かったのではないでしょうか.しかし,6月,7月と,意外と早く持ち直しているのは,ピアノ教室とかは,(プロを目指すような本格的な教室は除いて)比較的近所でマンツーマンで習う人が多く,感染対策をとりながら再開したところが多かったのではないのかと推測しますが,どうなのでしょうか?

他の教養的月謝

茶道,華道,,着物着付け教室,日舞,バレエ,社交ダンス,絵画,彫金,皮細工,刺しゅうなどの月謝です.これも一旦落ち込みますが,徐々に回復しました.そもそもこうした習い事への支出は年々低下してきていました.こうした習い事が流行らなくなってきたのか,そうした習い事をする余裕がなくなってきたのか,どうなんでしょうか? それはさておき,この回復力はどういうことか,こうした習い事は,数人単位でメンバーが比較的固定していて行われるから大丈夫ということなのか,昼カラオケと同じようなノリで行われるようになったのかは,ちょっと心配な感じはします.

その他気になった費目

幼児・小学校補習教育

これは習い事ついでに並べた費目で,特に減少はしておらず,むしろ増えている費目です. 学習塾,家庭教師,通信添削などの費用です.4月,5月が学校が休みで,さぞかし親御さんは焦られたことと思います.ただし,その増加は,自粛期間中かと思いきや,その前の前年12月~2020年3月に集中しています.そして次は自粛期間後の9月10月です.はてさて,これをどう理解したらよいでしょうか?

幼児教育費用

さらについでに言及しておくと,幼児教育費用の減少が目立ちます.これは2019年10月にスタートした幼児教育無償化によるもので,コロナとは関係ないと思われます.あまり話題になりませんでしたが, 幼稚園授業料 の補助および 保育園,保育所における3歳以上の保育料無償化が行われました.大学もなんとかしてほしい…

世帯主こづかい

最後に,どうでもいいのかもしれませんが,家計調査には世帯主こづかいという費目も設けられています.月額7千円前後で変動していますが,これは世帯主の小遣いの平均が7千円前後というわけではありません.家庭によって小遣い制とそうでないところがあって,そうでないところは0円のはずです.そうした家庭も含めた一世帯当たりの支出ということです.

世帯主こづかいは,12月が最大で6月にも小さな山が来ます.そうした変動の中でも,2015年から徐々に低下傾向でしたが,2017~2018年で底を打ち,2019年にかけては徐々に回復傾向にありました.しかし,2020年に入ってからは,ずるずると下がり始め,ひたすら低下傾向です.コロナによる収入減を反映しているのでしょうか,それとも,付き合いも減ったし,飲みに行くこともないから小遣いもいらないだろうってことでしょうか.小遣いの変動には地域差があることにも注目です.関東,名古屋,京阪神は減少で,仙台を除く東北,北海道(札幌)は増加です.いずれにせよ,全体としての減り方が,コロナを機に突然減ったとか,自粛期間に減ったとかではなく,傾向的にずるずる下がっているのに哀愁を感じます.

・・・といったところで,このお話は終了です.

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