ネギの由来

ネギの由来

ネギといえば、西では青ネギ、東では白ネギ(長ネギ)。関東は風が強いので、根深にしないとだめだから・・・とかいった話で盛り上がります。薬味に、鍋に、日本人には不可欠なネギ。今年は、夏がやたらと暑かったので、野菜の値段が高い。とりわけネギが高いというので、鍋にネギが入っていないということも珍しくないそうですが、ネギ無しの鍋など、たいそう寂しく感じます。今回は、そんなネギについて調べてみました。

ネギの原産は、諸説有り、中国の西部あたりとされていますが、原生種は見つかっていないそうです。中国には2200~2300年前に記録があり、4世紀ごろには栽培が始まっていたとされます。日本には、8世紀頃までには渡来し、「日本書紀」には秋葱(あきき)とあり、「延喜式」には栽培方法も記されているそうです。青ネギは南中国から、長ネギは中国北部で生まれたそうですが、日本へはどんな具合に伝わったのかはわかりません。一緒に伝わり、日本で気候に応じて分化したのでしょうか、別々に伝わって別々に普及したのでしょうか。

ネギの別名として「ひともじ」というのがあります。これはネギの形が「人」という字に似ているという説もありますが、韮(にら)の二文字に対して葱(き)の一文字だから、という説もあります。ネギは、ニラとともに、葷菜(くんさい)、つまり坊さまの邪念を起こす野菜の一つに入れられていたので、隠語として使われていたのではないかかんぐるのですが、正しいのかどうかわかりません。

京都の哲学の道沿いに法然院というお寺があります。かの法然上人のお寺でございまして、京都にちなんだ学者とか文人のお墓が並んでおります。九鬼周造とか河上肇とか福田平八郎とか。一番奥の谷崎潤一郎のお墓は、空と寂と描かれた二つの石を両側に配し、真ん中に糸桜を植えたなかなか洒落たものです。この法然院に入ろうとすると、門のところに「不許葷酒入山門」と書いてあります。坊さまは肉魚がだめだとは知っていましたが、これを見るまで、野菜にもだめなものがあるとは知りませんでした。葷菜には、ニラやネギの他に、ニンニク、タマネギ、ラッキョなどだそうです。どれもうまい野菜とは思うのですが、言われてみれば肉と相性のよい野菜ばかりです。その意味でも坊さまには避けられていたのかもしれません。フランス語はぼんじゅ~るぐらいしか知りませんが、聞くところによると、フランス語で、ネギ(poireau)といえば、だいぶお下劣な表現に使われることがあるそうな。魅惑のネギ・・・なのでしょうか。

 

ネギを「ひともじ」と呼ぶこと、その由来がわかりました。女房言葉のようですね。世界大百科事典(平凡社)によると、女房言葉というのは、かつて御所や院の仙洞(せんとう)御所に使える女官(女房)が使っていた言葉で、後に一般に使われるようになった言葉だそうです。女房言葉は、だいたい5種類に分けられるそうで、一つは、おいた(かまぼこ),おかか(かつお節),おなか(腹),おいしい(いし=美味)などの<お>ナントカ形式。2つめが、しゃもじ(杓子(しやくし)),ひもじ(ひだるい=空腹)などのナントカもじ形式。3つめが、あおもの(青菜)、ほそもの(そうめん)などのナントカ〈もの〉形式。4つめは、いしいし(だんご),するする(するめ),こうこう(香の物)などの重ね言葉の形式。5つめが、かべ(豆腐),むらさき(イワシ),はぎのもち・はぎの花(ぼた餅),きなこ(ダイズの粉)など、形や色の直喩や比喩などだそうです。日頃、我々が使っているものもあるし、あまり知らないものもありますね。いずれにせよ、「ひともじ」は、女房言葉で、しゃもじの仲間ということです・・・。

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