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卸売市場の出荷量と平均単価から何が読み取れるか

8月のキュウリの出荷量と単価の推移を見てみましょう.図は,2005年から2020年までの8月に東京都中央卸売市場に出荷されたきゅうりの出荷量と平均単価の推移です.後でいろいろな品目で動きを比較したいので,いずれも2008年から2017年の平均値を100とした指数で表しています.さらに,野菜の値段は変動が激しいので,きゅうりの平均単価を野菜全体の平均単価で割った相対単価にして,相場の変動を除外してあります.

きゅうり8月
東京都中央卸売市場

さて,この動きをどう読むかです.2008年から2012年まできゅうりの価格は低下傾向でしたが,2013年には回復し,2014年には高騰します.2016年には再び下落しますが,それ以降はやや落ち着きを見せます.2012年と2016年の価格下落時には,出荷量が増えています.2014年の価格高騰時には,出荷量はかなり少なくなっています.

出荷量が増えれば価格は下がるし,出荷量が減れば価格は高くなります.経済の原理そのままです.横軸に出荷量,縦軸に平均単価をとって,各年の動きを見るとその様子がよくわかります.

 

東京都中央卸売市場

一見気まぐれな価格変動が,1本の曲線に沿って動いていることがわかります.これが需要曲線です.いやいや,価格は需要と供給が交わるところで決まるのではないのか?と疑問に思われるかもしれませんが,こういうことです.

需要曲線を読み取る

確かに価格は需要と供給が交わるところで決まります.いわゆる均衡価格です.

価格は需要曲線と供給曲線の交点

しかし,野菜の場合,この供給曲線が立っています.供給曲線が右上がりなのは,価格の上昇に応じて供給量が増えるからです.価格が下がれば供給量は減ります.しかし,野菜の場合,一部の保存が効く品目を除いて,価格に応じて出荷量を調整することは困難です.価格が上がったからといって,急にきゅうりの出荷量は増やせません.逆に,価格が下がったからといって,次々と収穫期を迎えるきゅうりを収穫しないわけにはいかないのです.加温栽培で温度を調整したり,市場間で出荷量を調整したり,あるいは苦肉の策として産地廃棄をしたり,ある程度は調整しますが,通常はその日できた野菜がそのまま出荷するしかありません.だから,価格に関わらず短期的には供給曲線は立っています.少しの傾きはあるかもしれませんが,ほぼほぼ立っています.

野菜の場合,短期の供給曲線は硬直的(立っている)

しかも,野菜の供給は毎年一定ではありません.その年の天候などに左右されます.生産する人が増えて,毎年出荷量が増えることもあります.例えば,下の図で,2015年の出荷量が,2016年のよりも増えたとしましょう.この時,供給曲線は供給曲線1から,供給曲線2に移動したことになります.

供給が増えるということは供給曲線は右側へシフトすること.それにより価格は下がる

そうなると,当然価格は下がるわけで,2015年の価格が均衡価格1だとすると,2009年には均衡価格2まで下落します.しかし,実際には,我々にこの需要曲線も供給曲線も見えません.見えるのは,出荷量と価格の動きだけです.

需要曲線も供給曲線も私たちには見えない.見えるのは,均衡点の出荷量と単価だけ.

それでも,この点がたくさん集まれば,その軌跡として,需要曲線を確認することができます.

需要曲線が一定ならば,供給曲線が移動することによって,出荷量と価格の軌跡として需要曲線が浮かび上がる

需要曲線も移動する

しかし,8月のきゅうりの動きを見ると,2019年から2020年は,出荷量が増加この出荷量と価格の点が右上がりに移動しています.これはどういうことでしょうか?

次の図は,3月のミニトマトの出荷量と平均単価の動きです.ミニトマトの出荷量が増加しているのに,価格は下がっていません.

ミニトマト3月
東京都中央卸売市場

これを出荷量と価格のグラフにプロットすると次のようになります.途中右下がりの時期もありますが,全体として真横に移動しています.つまり,需要曲線が水平ということなのでしょうか?

 

東京都中央卸売市場

そうではなく,需要曲線が移動したと考える方が妥当です.野菜の場合,供給曲線ほどで年ごとに変動することはなくても,需要曲線も移動します.暖かい冬はなべ物に使う白菜は売れませんし,寒い冬は逆に売れます.そうした気候による変動だけでなく,一時期の水菜のように,突然サラダ需要が高まり,どんどん売れるようになりました(今はそうでもないですが…).逆に,だんだん利用されなくなってきた野菜もあります.

「需要が高まる」あるいは「需要が増える」とは,同じ価格でもたくさん売れるということです。あるいは,価格が高くなっても同じくらいかそれ以上売れると言うこともできます。これを図で表すと,例えば,次のように需要曲線の移動(シフト)として表すことができます。2012年の需要曲線より2013年の需要曲線が右側に移動しています。

需要が増加し,同程度に供給も増加した場合,価格はほとんど変化しない.

通常,需要が増えると価格は上昇します。しかし,この図の場合,需要が増えたのと同じくらい供給も増えたので,価格はあまり変わっていません。したがって,出荷量と価格の軌跡は,真横(右)に移動して見えます。

価格変動は需要と供給の変動のバランスで決まる

需要の増加に供給の増加が追い付いていなければ,価格は上昇します。下の図は,需要の増加の割には出荷量が増加しなかった場合です。

需要の増加が供給の増加を上回ると価格は上昇する

 

需給変動の9パターン

これらを整理すると,以下の9パターンに分けることができます。1

パターン# 需要 供給 価格
#1
#2 上昇
#3 上昇
#4 上昇
#5
#6 下落
#7 下落
#8 下落
#9

これらを図示すると下の図のようになります。真ん中の点を基準年の出荷量と数量で,比較する年の出荷量と数量が矢印の先です。真ん中に#9とあるのは,需要も供給も,したがって価格も大きな動きがないパターンを示しています。最初の8月きゅうりの例は#2のパターンで,次の3月ミニトマトの例は#1のパターンです。

供給と需要,価格の変動には9つのパターンがある

同じ価格下落でも3つのケースがあります。需要が伸びている場合と減少している場合,同じ需要が増加している場合でも,そのバランスがどうかで,産地が注視すべき局面は異なります。それぞれ対応すべき野菜の品目がどのパターンかを見極めることは,産地対応の方向性を決める上で重要です。

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  1. さらに細かく分けると,需要が増加しているのにそれ以上に供給が増加して価格が下落している場合,需要が減少しているのに,供給がそれほど減少していなくて価格が下落している場合など,4つのパターンを考えることができますが,実際の分析では,需要曲線を推定する精度の問題で,それほど細かくは分類できません.